指輪ケース修理

指輪ケース修理

お客様よりご依頼いただきましたのは、長年大切にされてきた指輪のケースの修理です。お客様ご自身で修理を試みられたとのことですが、残念ながらパーツが外れ、内部も露出した状態でお預かりいたしました。まずは、熟練のクラフト職人である私が、長年の経験と知識を活かし、ケース全体を丁寧に、そして無理のない範囲で組み立て直し、現状を把握いたします。欠損しているパーツはないか、破損している箇所はないかを詳細に確認することは、単に元の状態に戻すだけでなく、お客様の思い出を蘇らせるための最初の重要なステップです。

特に今回の修理で困難が予想されるのは、蓋と本体を繋ぐ役割を担う布地の破損です。蝶番が剥き出しになっている状態では、ケースとしての機能を十分に果たすことができません。ここで安易に汎用的な布地を使用してしまうことは、このケースが持つ独特の風合いや、お客様にとっての特別な価値を損なう行為だと考えます。なぜなら、一般的に大量生産されるアクセサリーケースとは異なり、大切にされてきた品には、その品質や意匠に見合った、オリジナルの布地が使用されていることが多いからです。

そこで、他所ではなかなか行わないかもしれませんが、私は、お客様からお預かりしたわずかな生地の断片を頼りに、専門の生地店を丁寧に探し歩き、可能な限り近い質感と色合いの生地を見つけ出すことから始めます。膨大な種類が存在する生地の中から、完全に一致するものを見つけることは容易ではありませんが、妥協せず、根気強く探すことが、お客様の満足に繋がると信じています。

そして、さらに手間と時間を要するのが、美しい仕上がりを実現するための準備段階です。現物のケースの形状や構造に合わせて、最適な道具、ガイド、治具を一つひとつ手作りで製作いたします。これは、単に修理するだけでなく、クラフト職人としての技術と経験、そして何よりもお客様への想いを形にするための重要な工程です。他所では効率を優先し、省略されることもあるかもしれませんが、細部にまでこだわり抜くことこそが、お客様にご納得いただける高品質な仕上がりを生み出すと確信しています。

もちろん、これらの目に見えない緻密な作業には、それ相応の修理代金を頂戴いたします。しかし、他所では真似できない、クラフト職人の技術と情熱、そして徹底的なこだわりが詰まった仕上がりは、必ずお客様にご満足いただけると信じております。再び美しい姿を取り戻した指輪のケースが、お客様の笑顔と共に末永く愛用されることこそが、私たちクラフト職人にとって、何よりの喜びです。