壊れた思い出に、再び息を吹き込む。

「もう直らないと思っていました」

そう言って持ち込まれたのは、バラバラに壊れてしまったキーホルダーと、輝きを失いかけた指輪。

それは、お客様の大切な方がヨーロッパ旅行のお土産に贈ってくださったという、かけがえのない品でした。

■ 職人を悩ませる素材「アンチモニー」

キーホルダーの正体は、アンチモニー。 アクセサリーにはよく使われますが、修理屋泣かせの素材でもあります。

  • 熱に極端に弱い(ロウ付け・溶接が不可能)
  • 非常に脆い(折れやすく、再生が困難)

一度バラバラになれば、元の形に戻すのは至難の業。 多くの職人が「修理不可」と首を振る素材かもしれません。

ですが、そこに込められた思い出まで「不可」にはしたくない。

■ 誠実であること、逃げないこと

修理に取り掛かる前、私はお客様に**「正直なリスク」**をお伝えしました。

  • 新品同様には戻らないこと
  • どうしても修理の痕跡が残ってしまうこと

小さなお品物だからこそ、嘘はつけません。 何度も対話を重ね、私の提案する「強度を優先した再構築」という方法を信じて、託していただくことになりました。

■ 刻まれた時間を、未来へ繋ぐ

慎重に、かつ大胆に。 別の金属で骨組みを作り、強度を確保しながら一つひとつのパーツを繋ぎ合わせていきます。

指輪の傷を磨き上げ、失われていた輝きを呼び戻す。

「おかえりなさい」

そんな気持ちで、最後の手入れを終えました。

■ 職人として、最高の瞬間

仕上がった品を手にしたお客様の、あの安心したような、弾けるような笑顔。 その瞬間に立ち会えることが、私にとって何よりの報酬です。

形あるものは、いつか壊れる。 けれど、そこに宿る想いは、手入れ次第で何度でも蘇る。

あなたの引き出しに眠っている「大切な思い出」はありませんか? 諦める前に、一度私に聞かせてください。

 

壊れたキーホルダー

修理したキーホルダー


 
#ヨーロッパ旅行#指輪#キーホルダー#思い出#修理